なぜ水素なのか?
政府は、2020年に開催される東京オリンピックにおいて、競技施設への選手や観客の交通手段などに、次世代自動車の本命と目されている燃料電池車を積極的に投入するなどし、世界各国に水素社会や日本の環境技術の優位性をアピールする方針です。また、経済産業省は、水素活用社会の実現に向けた工程表をリリースしています。これによると、燃料電池車の分野で世界をリードできるように政府がバックアップすることや、水素エネルギーの積極活用によって、地球環境の悪化につながる化石燃料の使用を減らすことなどを盛り込んでいます。では、なぜ水素なのでしょうか。水素は、ガソリンや軽油、天然ガスや石炭などと異なり、爆発燃焼時や燃料電池が発電する際に、有害ガスや二酸化炭素などは発生せず、水(H2O)が排出されるだけです。そのため、排気ガスによる大気汚染が問題となっている大都市圏などでの環境改善に、大きく寄与するものと期待されているのです。
自動車での活用方法は2種類ある

自動車を動かすエネルギーとして水素を利用するには、どのような方法があるのかを解説します。まず、真っ先に思いつくのは、水素を燃やす方法です。これは、車に搭載した水素ボンベからエンジンに水素を送り込み、酸素との反応により爆発燃焼させることでエネルギーを取り出す方式です。この分野ではマツダが水素ロータリーエンジンを開発しており、すでに実用化のメドがついています。このエンジンは、水素とガソリンを切り替えて使用できるデュアルフューエルシステムに対応しているため、水素ステーションが少ない現状においても、ガソリンを併用することで燃料切れを防ぐことができます。
話題性抜群の燃料電池車

一方、水素を活用する自動車として本命視されているのが燃料電池車(FCV)です。燃料電池は、水を電気分解して水素と酸素を生成するのとは逆に、水素と大気中にある酸素の化学反応によって電気を生み出します。燃料電池車は、燃料電池が発電した電気を使い、モーターを回して走行します。トヨタは2014年12月に、燃料電池車としては世界初の量産車であるMIRAI(ミライ)を発売しています。車両価格は723万円と高額ですが、多数のオーダーが入っています。但し、月産台数が限られているため、今から注文すると納車が2018年以降になるとトヨタは発表しています。
水素社会実現には課題が山積
水素は、自動車への利用だけでなく、製造業や発電所、あるいは一般家庭での利用に至るまで、さまざまな場面で既存のエネルギーに取って代わる可能性を秘めています。一方で、水素インフラの整備には莫大な投資が必要となりますし、高価な燃料電池のコストを下げるためのさらなる技術開発が必要となるなど、山積している課題を解決していけるかが、本格普及に向けての重要なカギとなります。