2017/07/14
平成4年に発売された「マツダ・オートザムAZ-1」、平成3年に発売された「ホンダ・ビート」及び「スズキ・カプチーノ」の頭文字から、3車種のことをまとめて「平成ABCトリオ」と呼びます。
この3車種の共通点は、軽自動車規格で2シートのスポーツカーという所で、荷物の置き場にすら困る程に実用性は低いです。
ただ、バブル真っ只中の時代にはそんな実用性の低さは豊かさの象徴とも捉えられ、平成元年に登場した「マツダ・ロードスター」の大ヒットもあり、2シートのスポーツカーも景気の良い頃は受け入れられていました。
しかし「平成ABCトリオ」の登場後すぐにバブルが崩壊することとなり、実用性が低いクルマは真っ先に候補から外されてしまうことになります。
当然、実用性とはかけ離れた「2シート軽スポーツカー」などというコンセプトの平成ABCトリオは売上が急激に落ち込み、バブル崩壊後から今に至るまで、実用性重視のクルマが売れるようになり、趣味性の高いクルマは非常に貴重な存在となります。
軽自動車としては高い車両価格(あと少しお金を出せば「マツダ・ロードスター」が購入できてしまう)も、売上が芳しくなかった大きな要因です。
「マツダ・オートザムAZ-1」は平成ABCトリオのうち、最後に発売されたクルマで、国産車で唯一(※1)、かつ軽自動車規格の中で唯一(※2)のガルウイングドアです。また、ドアの上部は透過率30%のガラスキャノピーになっており、オープンカーではないものの開放感を感じさせる作りになっています。
エンジンは当時協力関係があったスズキ製で、OEM供給を条件にエンジンの提供を受けたため、「スズキ・キャラ」という姉妹車があります。
※1:「トヨタ・セラ」も国産車(こちらは普通車)でガルウイングドアのような形状ですが、正確にはバタフライドアです
※2:「スズキ・キャラ」も同じ軽自動車のガルウイングドアですが、AZ-1のOEM車であるため、実質的には同一車種と言えます
ガルウイングドアを採用したのは、単に「カッコイイから」「目立つから」という理由ではなく、非常に低い全高を実現するためにサイドシル部(ドアを開けて乗り込む際に跨ぐことになる部分)が高くなってしまったからです。
走りに特化するということは、空力特性や重心の位置などを考慮すると、車両の全高はできるだけ低い方が良いということになりますが、自動車は事故が起きず普通に走らせているだけでもカーブ等で非常に強い遠心力がかかるため、自動車のフレームは外部からの力に耐えられる堅牢性(=剛性)が求められ、その剛性を確保するためにはフロアトンネル(車室内のフロア中央部にあるトンネル上の突起)等で補強する(=居住性が低下する)必要があり、全高を低くするにも限界があります。
「AZ-1」のようにサイドシルを補強することにより居住性を低下させず、限界まで全高を低くすることができますが、サイドシルが分厚くなると普通の横開きのドアのままでは、乗り降りの際に穴をくぐるような動きをしなければならなくなります。
しかし、ルーフの一部も同時に開けることが可能なガルウイングドアであれば、サイドシルが多少高くなっても頭をぶつけることなく乗り込むことが可能になります。
「マツダ・オートザムAZ-1」はそうした工夫により、全高1150mmという驚異的な低さを実現しており、国産市販車の中で最も低い数値になっています。普通のクルマであれば前方のクルマのリアガラスの高さに目線がきますが、「AZ-1」に乗っていると、前方のクルマのナンバープレートの位置に目線が来るほどです。
また、全高が低いおかげで空気抵抗も低く、最高時速は軽自動車ながら187km/hと非常に高い数値を誇ります。
なお、総販売台数は4392台と、「平成ABCトリオ」の中でも際立って少ない台数です、
これは競合車種の「ホンダ・ビート」及び「スズキ・カプチーノ」が先行販売されて需要を先食いされた事や、他の競合車種よりも価格が少し高かった事などが原因と考えられます。
「ホンダ・ビート」は、平成ABCトリオのうち、最初に発売されたクルマで、「理屈抜きに楽しく、街のコミューターとなるようなクルマ」をコンセプトに開発されました。
ガルウイングドアが特徴だった「マツダ・オートザムAZ-1」とは異なり、「ホンダ・ビート」及び「スズキ・カプチーノ」はオープンカーになっています。
そして同じオープンカーですが、「ホンダ・ビート」はソフトトップで、「スズキ・カプチーノ」はハードトップという違いがあります。
高性能のエンジンを製造するホンダが本気を出して作ったため、64psという軽自動車の馬力上限値を自然吸気エンジン(=ターボなし)で唯一達成しています。
総販売台数は3万3892台で、平成ABCトリオの中では最も販売台数が多かったようです。
「スズキ・カプチーノ」はハードトップのオープンカーですが、ルーフ構造がフレキシブルになっており、クローズド(ハードトップを付けた状態)、Tバー(ルーフの中央部分を補足残して左右のルーフを取り外した状態)、タルガトップ(ルーフパネル上部のみ外し、Bピラー等は残った状態)、フルオープンの4つの状態に切り替えることが可能です。
ABCトリオの他2車種がMRで、カプチーノのみFRだったため、「軽のロードスター」と捉えている人もいたようです。
カプチーノはフロントアクスルシャフトより後部にエンジンの重心を位置させる「フロントミッドシップ」を目指し、重量配分はフロント51対リア49という理想に近い配分を実現しています。
また、エンジンを縦置きすることで生まれた左右のスペースを使い、軽自動車では初の4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用しています。
総販売台数は2万6583台で、ビートに次ぐ台数でした。
前述の通り、ビートはバブル崩壊などにより売上が低迷しましたが、2シートの軽スポーツカーというジャンルはまだ途絶えておりません。
ダイハツからは15年程前から「ダイハツ・コペン」、ホンダからは2年程前に「ホンダ・S660」という軽自動車規格のオープンカーを販売しています。
●「ダイハツ・コペン」
…「軽自動車のオープンカー(軽オープン)」から「KOPEN」と名付けられました。その後に軽自動車の「K」をコンパクト(Compact )の「C」に変え、「Copen」という現在の綴りになりました。
フルモデルチェンジ後の2代目コペンでは、「D-Frame」という骨格構造をしており、骨格だけで剛性を確保することができるようになり、ドアを除くボディ外板を樹脂製にすることも可能になりました。また、骨格だけで剛性を確保できるようになっているので、車両購入後にも外装パーツを交換する事が可能です。これを脱着構造「Dress-Formation」と呼びます。
単にボディカラーを変えるというレベルではなく、「着せ替え」によってヘッドランプの形状などの外装のイメージを大きく変えることがいつでもできるのは、非常に画期的で面白い試みであると思います。
●「ホンダ・S660」
…本田技術研究所の設立50周年を記念して、「新商品企画提案」が社内で開催されましたが、「S660」の企画を提案した若手社員が入社4年目で開発責任者に選出されることになりました。
車種名からするとかつて販売されていたスポーツカーである「ホンダ・S2000」の系譜のように見えますが、「S2000」がFRのレイアウトであるのに対し、「S660」はMRのレイアウトになっており、軽自動車規格であるということもあり、実質的には「ホンダ・ビート」の後継車種ととる事ができます。
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