F1のタイヤは溶けるって本当?

2016/11/18

溶けるタイヤ「スリックタイヤ」

F1など使われるレーシングタイヤは様々な種類があり、路面の状態やレース戦略などによって使い分けられます。 そんなレーシングタイヤの中でも、「スリックタイヤ」というものは、走行中に溶ける非常に特殊なタイヤです。 スリックタイヤはサイピング(溝)が全く無く、道路運送車両法では溝のないタイヤは公道では使用できないため、純粋な競技用タイヤです。 一般的に市販されている車のタイヤは、タイヤ(の溝)と路面との摩擦によりグリップを得ていますが、スリックタイヤは路面との摩擦によって発生した熱でタイヤの表面を溶かして路面に粘着させることでグリップを得るようになっています。 その仕組み上、一般道の制限速度程度では発熱が足りず、グリップが得られないため、一定以上の速度で走らないと逆に危険です。 また、溝がないために濡れた路面を走行すると排水できず、ハイドロプレーニング現象が発生しやすいため、乾燥路面専用となっています。 タイヤを効率良く溶かすために、タイヤウォーマーという装置で予め走行前にある程度高温(90℃程度)の状態にしておき、高速走行によって発生した摩擦熱でタイヤを溶かしています。

スリックタイヤの寿命

スリックタイヤは溶けたタイヤを地面に擦りつけながら走っているため、非常に寿命は短いです。 さらに高温にさらされるため、タイヤ表面の素材も劣化してグリップ力の低下を余儀なくされます。 その他にも、タイヤ表面の素材がグリップ力に与える影響が大きく、製造されてから時間が経過すると、例え未使用でもグリップ力を失ってしまいます。 スリックタイヤによらず、高性能なレーシングタイヤは、いずれも走行性能にのみ注力して使い捨て前提の設計です。 そのため、スリックタイヤなどは生鮮食品などと同じように「賞味期限」と言われ、性能が保障できる期限は非常に短くなっています。 短いものでは、設計寿命が10kmに満たないタイヤも過去には存在したそうです。 スリックタイヤ以外では溝があって公道を走行できるようなレーシングタイヤも存在しますが、ロードノイズが酷かったり、コストパフォーマンスが非常に悪いので、実質的にはレース専用ということになっています。

スリックタイヤの注意点

前述の通り、スリックタイヤは道路運送車両法、装着して公道に出るだけで違反になってしまいます。 その為、スリックタイヤは日本では流通が自主規制されており、レースの参加者にしか販売されておらず、レースの規則でスリックタイヤの譲渡を不可能としています。 レースに参加する場合、購入可能なわけですが、それを公道で使用しないように誓約書を提出する必要があります。 スリックタイヤを購入・利用する機会があったとしても、速度制限がある公道でのスリックタイヤの利用は危険で、法律違反になりますので、公道では絶対に利用しないようにしましょう。

タイヤカス

溶けたタイヤがどうなるかと言うと、タイヤが接触した路面(=レーシングライン)にゴムが張り付くか、タイヤカス(=マーブル)となって排出されるかのどちらかです。 路面に張り付いたゴムは、走行する車のタイヤのグリップ力をさらに向上させるため、レースの進行に従って、レーシングラインのコンディションはどんどん良くなり、走りやすくなります。レース界隈では溶けたゴムがレーシングラインに張り付いて走りやすくなることを「ラバーが乗る」と言います。 しかし、レーシングライン以外にマーブルとして排出されたゴムは、非常に厄介な存在になります。 カスと言っても非常に大きな塊で、太い油性マジックペンのサイズくらいあります。 お菓子のマーブルチョコレートの容器のようにも見えることから、タイヤカスのことをマーブルと呼びます。 それくらいのサイズになると、高速走行するレーシングカーにとっては完全に障害物となってしまいます。 国内のサーキットの中でも世界的に有名な鈴鹿サーキットでは、このタイヤカスにそっくりな黒いさきイカを「タイヤカスさきいか」として販売しています。 コース上に残っているタイヤカスは拾って持ち帰ることができるので、さきいかと本物のタイヤカスを比較してみるのも面白いかもしれません。

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