ディーラーで車を購入するとき、「在庫車」をすすめられる場合があります。
名前からするとメーカーやディーラーのストックのようですが、購入しても問題はないのでしょうか。メリットやデメリットを紹介します。
在庫車ってどんな車?品質は大丈夫?
ドライバーが車を注文してから工場で生産してディーラーまで届くには、国内生産で2~3週間、海外生産では輸送期間がプラスされるので1ヶ月前後かかります。ディーラーに届いてもオプションの取り付けや整備、点検などを行うため、ドライバーは納車されるまでさらに2週間ほど待たなければいけません。
それでは時間がかかり過ぎて、大量の注文が発生したときに捌けない恐れがあります。そこでメーカーでは売れ筋のモデルを、あらかじめ注文を受ける前に生産しておき、ストックしているのが、いわゆる在庫車です。これなら2~3週間ほどで納車され、商機を逃さないというメリットがあります。
在庫車は、メーカーなら「モータープール」と呼ばれる車の保管場所、ディーラーなら店舗の敷地内に保管されます。そのほとんどが屋外で野ざらしですから、雨や風、日光、ほこりなどの影響が懸念されるでしょう。
けれども保管中はボンネットやルーフに保護用のシートが貼られており、錆び止めのコーティングもされているため、どんなに長期間ストックされても品質に問題はありません。
基本的に在庫車は過去の実績を元にした販売計画によって生産されますが、見込みが外れると大量のストックを抱えてしまうリスクがあります。在庫車には9ヶ月という期限があり、それまでに販売できなければ一旦自社の車として登録し、中古車として流通させなければいけません。いわゆる「未使用車(新古車)」です。
9ヶ月という期限があるのは、完成時に発行される「完成検査終了証」が無効になってしまうからです。完成検査終了証が有効の間は車検なしで新規登録できますが、無効になると運輸支局に車を持ち込んで車検を受けないと新規登録ができません。未使用車にするのは販売価格よりも安く業者に売却しなければいけないので、ディーラーにとっては大損です。
その頃になると、ディーラーの営業担当者は積極的に在庫車をプッシュするようになります。新車なのに「在庫処分」や「ワケあり」と銘打つ場合もありますが、ほとんどが「即納できます」とすすめてくるようです。
ディーラーは自社の判断で在庫車をストックしますが、メーカーによっては多めに生産して押しつけるところもあります。過去には、こうした在庫車が数多く未使用車になり、新車の販売力が落ちてメーカーが謝罪したこともありました。在庫車を保管するだけでも費用がかかるので、ディーラーとしては早く手放したいわけです。
もっとも、受注生産にすると2~3ヶ月はかかってしまうので、一概に在庫車が悪いとは言い切れません。むしろアメリカなど海外では在庫車を販売して、当日中に受け渡しできるのが当たり前になっています。
ディーラーが販売しようとしている車が在庫車だと見極めるには、納期のスケジュールを確認するのが一番です。注文車であれば製造開始日などが分かるようになっていますが、在庫車は既にメーカーやディーラーが保管しているため、即納できるとしか答えようがありません。希望のグレードや色、メーカーオプションを選べないのも該当します。
あえて在庫車を購入するメリットは?
先述のとおり、在庫車は既に完成しているので2~3週間ほどで納車されます。さすがに新規登録や車庫証明などの手続きが必要で、アメリカのように即日というわけにはいきませんが、急いで車を必要とするときは便利です。
また、抱える在庫車の量や保管期間によっては値引きを期待できるメリットがあります。完成検査終了証の有効期限が迫っているときはもちろん、モデルチェンジ後に旧型の在庫車が売れ残っているときなどです。
コンパクトカーや軽自動車は、旧型でもこだわらずに購入するドライバーが多いため、どうしてもディーラーが過剰に在庫車を抱えやすい傾向にあります。
だからといって、最初から在庫車目当てで交渉すると、思ったほど値引きされない可能性があります。そもそも台数が限られており、よほど期限が迫っていなければ、まだ他の買い手が見つかるのを待てるからです。
最初は注文車で交渉して、途中から「これよりもっと安くなるなら在庫車でもいい」という流れに持っていったほうが良いでしょう。予算を上回る在庫車をすすめてきたときには、「この予算内なら買う」と提示するのも効果的です。
値引きされるのは5~10万円くらいが目安で、同じモデルの未使用車販売価格が参考になります。それより値引きされていれば上出来です。
既に値引き額がディーラー側で決まっているなら、下取り額の上乗せやオプションのサービスができないか探ってみましょう。いずれにしても在庫車を安く購入するときは、注文車と同じく、交渉力が必要になります。
在庫車を購入するデメリットは?展示車に注意
在庫車は既に完成しているため、後からメーカーオプションを付けることができません。どうしても選びたいメーカーオプションがあるときは、在庫車を諦めたほうが良さそうです。
同様に選べるグレードや色に限りがあります。特に売れ筋から外れていると、在庫車自体が存在しないかもしれません。例えば下位グレードのエントリーモデルや、黒・白・シルバー以外の個性的な色です。
逆に安く購入できたとしても、在庫車がモデルチェンジ後の旧型であった場合は、直後からリセールバリューが大きく下がります。短期間で乗り換えるなら結局は損してしまうのがデメリットです。
他にも、在庫車の中には「ネガティブ在庫車」というのがあります。これは注文を受けて製造したものの、納車前にキャンセルされた車です。車自体に問題はありませんが、なぜキャンセルになったのか確認したほうが良いでしょう。
一方で、普通の在庫車には無いメーカーオプションが取り付けられていたり、珍しい色を購入できたりするのがメリットでもあります。
もう1つ気をつけたいのが「展示車」です。これも在庫車の一種ですが、ショールームで展示されているために不特定多数の人が触っています。それだけなら問題ありませんが、スイッチやレバー類を乱暴に操作している可能性があります。誰も触っていない在庫車よりも、故障するリスクがあるため、避けたほうが無難です。
良心的なディーラーであれば展示車であることを教えてくれますが、念のため展示車は不要だと意思表示しておいたほうが良いでしょう。逆に展示車だからこそ、有利に値引き交渉できる場合もあります。
まとめ
在庫車は、あらかじめメーカーやディーラーにストックされている車であり、注文から早く納車されるのがメリットです。
品質にも問題はありません。一方でグレードや色、メーカーオプションを選べなかったり、旧型であればリセールバリューが急に下がったりするデメリットもあります。
納得した上で購入したいものです。