人の力で車のエンジンをかけることができる押しがけ。今の車ではほとんど活用することが少ない、エンジンの始動方法です。
しかし一部の車では、まだ試すことができるとも言われています。
この記事では、押しがけをする時の注意点や、押しがけの細かい手順について解説していきます。
なぜ押しがけで車が動くの?
そもそも車を押しがけして、なぜエンジンを動かせることができるのでしょうか。
通常であれば、キーをひねってエンジンを始動させますが、トラブルの時には一部の車では押しがけをしてエンジン始動が可能です。
「押しがけ」って何?
押しがけというのは、言葉の通り車を押してエンジンを始動する方法です。タイヤが回転する力を、ドライブシャフトやミッションを介してエンジンに伝えることで、エンジンがスタートするのに必要な力を伝えます。
通常であれば、セルモーターというスターターがエンジンの初動を行いますが、バッテリーが弱っているなどして、スタートできない時に押しがけを試すことができるのです。
ガス欠や他の部品の故障ではなく、セルモーターが壊れてしまっている時、またバッテリーが弱りすぎている時には押しがけを試してみることができます。
昔のバイクのレースでは、セルモーターが搭載されていないモデルも多いことから、レーサーが押しがけをするシーンを良く見かけました。またバイクの場合には、バッテリーが上がってしまった時などに、良く活用できるエンジンスタートの方法です。
押しがけできる車は少ない
しかし問題点として、最近のインジェクションを搭載している車の場合には、押しがけでエンジンをスタートさせるのが難しくなります。
インジェクション車の場合には、電磁ポンプによって燃料を供給するので、バッテリーが上がってしまうと、電磁ポンプが作動しなくなるのです。電磁ポンプが作動するほどの電圧が残っていても、規定電圧以下ではECU(コンピューター)に電気が流れなかったり、クランクが一定回転数にならないと、燃料噴射や点火がされなかったりするエンジンも多くあります。
エンジンを保護するための機構になっているのですが、いざという時にエンジンを始動させることができないので、少し不便になります。こういった場合には、素直にバッテリーを充電させるしか方法がありません。
またMT車の場合には押しがけをすることができますが、AT車の場合には車の機構上、押しがけをすることができません。AT車の場合も、バッテリーを充電させるしか再始動の方法はないのです。
車を押しがけで動かしてもいい?
車を押しがけする方法と、リスクについても解説しましょう。
押しがけのやり方
・エンジンキーをONにしてギアを2~3速に入れる
エンジンキーをONにしないと、エンジンが始動できません。また車が動いている回転エネルギーをエンジンに伝えるには、2速か3速ギアがちょうどよい速度になります。最初に2速ギアか3速ギアに入れておき準備をしましょう。
・クラッチペダルを踏んだまま後ろから押してもらう
ドライバーはクラッチペダルを踏み込んだままにしておき、エンジン始動に備えます。もう一人に後ろから車を押してもらい、小走り程度になるまで加速してもらいます。
・5~10km/hくらいになったらアクセルを踏んでエンジンを起動させる
小走り程度の速度になると、クラッチペダルを離し、エンジンに回転エネルギーを伝えます。完全にクラッチを離すのではなく、半クラッチとアクセルを踏み込むのを調整しながら、エンジンがかかるように調整します。
一度エンジンがかかれば、アイドリングが安定するまでアクセルを調整します。バッテリーが弱っている車体の場合には、バッテリーに電気が流れるように、アイドリングの回転数が高めになるようにアクセルを踏み込みます。
押しがけをお勧めしない理由
押しがけがあまりお勧めできない理由として、パワステやブレーキ倍力装置が使えないという点があります。パワステが使えないと、ハンドル操作が重くなりますし、ブレーキをかけるのも重くなるのが注意点です。
安全で広い場所があれば、操作が重くなっても問題なくハンドル操作をしたり、ブレーキ操作をしたりできます。しかし狭い場所の場合には、パワステやブレーキ倍力装置が使えない状態では、危険が伴うのです。
押しがけに似た別の方法として、別の車にけん引してもらい、エンジンを始動させる引きがけという方法もあります。こちらの場合も、エンジンを始動させるタイミングが難しく、広い場所が無ければ挑戦することが難しいので、やはりお勧めの方法とは言えません。
まとめ
エンジンの押しがけは、MT車でしかもキャブを使用している車の場合には、試してみる価値のある始動方法です。バッテリーが上がってしまっている、もしくはスターターが故障しているMT車の場合には、友だちの助けも借りながらエンジンをスタートさせることができます。
しかし、車の押しがけをするには安全で広い場所で行い、車を押すことができる人が必要になりますので、全ての人にお勧めできる方法とは言えないでしょう。