2022年5月13日に道路交通法の一部が改正されました。
高齢運転者が関わる交通死亡事故は社会問題化しており、高齢運転者対策の強化が図られた今回の法改正では、高齢運転者の免許更新時に運転技能検査が義務化されたり、新たにサポートカー限定条件付運転免許が創設されています。高齢運転者対策の強化により、今後運転免許を自主返納するという方も増えることでしょう。
こちらでは
- 道路交通法の改正で変わった高齢運転者の免許更新について
- 運転免許自主返納制度のメリットデメリット
について詳しく解説します。
ご自身の今後の運転免許更新手続きはどうなるのか気になっている方、ご家族に高齢ドライバーがいて運転免許の返納をすすめるべきか悩んでいるという方は、ぜひ参考にご覧ください。
高齢運転者の運転免許は道交法改正で何が変わった?
最新の道路交通法の一部改正は、令和2年6月10日に公布、令和4年5月13日により施行開始です。
今回の道交法改正により変更になった高齢ドライバーの運転免許について、また新しく創設された運転免許の条件について解説します。
高齢運転者対策による高齢者運転免許更新内容の変化
今回の道交法改正により、75歳以上の運転者で一定の違反歴のある人が運転免許証を更新するには、運転技能検査等の実車試験を受けて合格しなければ、免許更新出来なくなりました。
この一定の違反歴の対象となる期間は、運転免許証の有効期間が満了する日の直前の誕生日の、160日前から、前3年間のあいだです。違反歴の内容は下記の基準違反行為が対象となります。
信号無視 | 通行区分違反 | 通行帯違反等 | 速度超過 |
横断等禁止違反 | 携帯電話使用等 | 交差点右左折方法違反等 | 交差点安全進行義務違反等 |
横断歩行者等妨害等 | 安全運転義務違反 | 踏切不停止等・遮断踏切立ち入り |
運転技能検査等の実車試験の内容
対象となる期間内に一定の違反歴がある場合は、運転技能検査の実車試験を受けて合格しなければ、運転免許の取り消しとなってしまいます。
この運転技能検査の受検期間は、更新期間満了日前の六月(約190日)以内であれば、繰り返し受検が可能で、受検の検査手数料は3,550円となっています。
実車試験のため、受検者の運転席の隣に検査官が着席して検査を行います。下記が実車試験で課題になる内容です。100点満点からの減点方式による検査で、普通免許は70点以上、普通第二種免許なら80点以上で合格となります。課題ごとに判断基準があり、減点の点数が決められています。一度の操作ミスで40点減点もあるため、内容次第では即不合格になることもあります。
課題 | 減点 | 判断基準 |
指示速度 | 10 | 指示速度に対して-10km/hを一度も達していない または+10km/hを複数回を達した場合 |
一時停止 | 10 | 一時停止線を越え、交差道路の延長線上までに停止した場合 |
20 | 一時停止線を越え、交差道路の延長線上も越えた場合 | |
右・左折 | 20 | 右・左折後、車体の一部が中央線から右側にはみ出した場合 |
40 | 右・左折後、車体の全部が中央線から右側にはみ出した場合 | |
20 | 脱輪した場合 | |
信号通過 | 10 | 赤信号の時に、車体の一部が停止線を越え、横断歩道に入るまでに停止した場合 |
40 | 赤信号の時に、車体の一部が停止線を越え、横断歩道に入った場合 | |
段差乗り上げ | 20 | 段差に乗り上げて停止した時、段差の端とタイヤの中心の距離が1メートルを超えた場合 |
その他 | 30 | 検査員がハンドルやブレーキの補助などを行った場合 |
サポートカー限定条件付免許とは
5月13日の道交法改正時に、新たに創設された運転免許の指定条件が【サポートカー限定】です。サポートカー限定条件付免許では、普通運転免許にさらに条件を付与して、運転できる自動車の範囲を限定します。
普通運転免許を受けている人が自身で申請を行い、運転出来る自動車の範囲をサポートカーに限定するという条件の付いた免許になります。サポートカー限定条件付免許は、運転免許証の更新申請時にあわせて申請が出来ます。
サポートカー限定免許で運転できるサポートカーとは
サポートカー限定条件が付与された限定免許を受けた人が運転できるサポートカーとは、下記の安全運転支援装置が搭載された普通自動車・軽自動車となります。対象の安全運転支援装置については、後付けの装着は対象外です。
安全運転支援装置の機能 | |
衝突被害軽減ブレーキ | 前方の対車両や対歩行者に対して検知し、衝突の可能性があると判断した場合は運転者に対してナビ画面や警告音で警報します。また、衝突の可能性が高いと判断されると自動で軽減ブレーキが対応します |
ペダル踏み間違い時 加速抑制装置 | 発進時や、低速で走行する時にブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えて踏み込んだ場合、エンジン出力を抑える方法によって車が加速することを抑制します |
サポートカー限定条件の付与された運転免許証を持っている方は、サポートカー以外の普通自動車の運転は出来ません。もしも運転してしまうと交通違反の免許条件違反となり、違反点数2点減点と、反則金が課せられます。
運転免許自主返納制度について
朝のニュースなどで、高齢ドライバーに関する交通事故の報道を目にする機会が増えています。要因として考えられることの一つは、70歳以上の運転免許保有者が急激に増えているということです。警察庁資料によると、10年前の平成22年は70歳以上の運転免許保有者は約653万人でしたが、令和元年になると約1,196万人と増加しており、9年で約1.8倍まで増加していました。
近年高齢免許保有者が増える中、交通事故件数全体のうちに占める、高齢運転者の死亡事故件数自体は決して増えているわけではありません。交通事故の発生件数自体も減っています。しかし、やや減少しているとしても少ないわけではありません。
特に75歳以下のドライバーと比べると、高齢ドライバーの交通死亡事故は車両単独による事故割合が高く、要因として運転者の操作不適やハンドル操作不適が多くなっており、運転者自身の高齢による認知機能の衰えが原因のひとつと考えられています。
このことから、運転免許の自主返納制度が注目を浴びています。自身が高齢になり、認知機能の衰えを自覚してきたら、事故を起こさないうちに運転免許を自ら返納して運転することをやめるというものです。
運転免許の自主返納制度は気になっているが、どうすれば出来るのか分からない方や、運転免許証を返納すると身分証明書がなくなってしまい困るという方もいらっしゃるでしょう。これから運転免許証の自主返納をしようとしている人や、高齢のご家族に勧めようとしている人は、制度の概要と返納後に行う手続きについて見ておきましょう。
運転免許の自主返納制度とは?
運転免許の自主返納が制度化したのは、1998年4月のことです。運転免許自主返納制度は「運転免許申請取消」を申請して行います。
運転免許自主返納制度ができたばかりの頃は、世間一般に認識されておらず、制度を利用する人も少ない現状がありました。しかし、池袋の高齢ドライバーが関わる交通死亡事故など、悲惨な交通事故のニュースを見て自主返納を考える人が急増し、警察庁統計によると令和元年には約60万人が自主返納制度を利用したとされています。
国連の定義では65歳以上の人を高齢者、70歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上の人を後期高齢者と呼びます。ご自身やご家族で運転免許自主返納を検討している人がいるなら、何歳から免許返納制度を利用できるのか気になっている人も多いでしょう。
実は、運転免許自主返納制度は年齢が限定されていません。何歳から何歳までということはないため、ご自身や周囲が認知機能の衰えを感じて運転に不安を感じたら、返納を考える時期と捉えておくといいでしょう。
運転免許自主返納は、現住所を管轄する各警察署か運転免許試験場で申請します。所持する運転免許証の有効期限内であれば申請可能です。申請の受付は休日を除く月曜日から金曜日です。ただし運転免許証を紛失されている場合は、再交付と同時に申請するため警察署では申請出来ず、運転免許試験場で再交付と申請取消の申請をする必要があります。
また、身分証明書として運転免許証を提示していた人は、返納すると使えなくなるため、免許返納をためらっているかもしれません。そのようなことを考慮して、免許を返納した場合には公的な身分証明書となる運転経歴証明書の交付申請ができるようになっています。
自主返納後の運転経歴証明書交付の手続き方法
運転経歴証明書は、運転免許証と同じ大きさをしている書面です。
運転経歴証明書には、自主返納をした日または運転免許失効した日より前5年間の、自動車等の運転に関する経歴が運転者区分によって表示されています。
運転経歴証明書の交付後は、身分証明書として生涯使用することが出来ます。銀行口座を開設するときや、市役所で証明書などを発行する時にも公的な本人確認書類として使用可能です。
運転経歴証明書の交付申請は、返納時に同時に行うか、運転免許返納から5年以内に申請を行います。交付申請は管轄の警察署や運転免許試験場で行います。
運転経歴証明書の交付申請に準備するもの
- 交付手数料 1,100円
- 申請者の住所氏名生年月日が確認できるもの(住民票の写し/マイナンバーカード/健康保険証/旅券等)
- 申請用写真(縦3センチメートル×横2.4センチメートル、正面、上三分身、無背景)
- 運転免許証(同時に自主返納を行う場合)
- 委任状(代理人が申請する場合必要)
運転免許の自主返納手続きや運転経歴証明書の交付申請を、本人が直接行くことが難しい場合は親族など代理人が行うこともできます。
運転免許自主返納のメリット
運転免許を自主返納することで得られるメリットは沢山あります。
車にかかっていた維持費がなくなる
まず、分かりやすいメリットとしては、これまで車にかかっていた費用がかからなくなります。車の維持費は意外と多くかかっているものです。
ガソリン代の他に税金や車検代、保険料なども含めれば、かなりの金額が浮きます。駐車場を借りていた場合には、さらに浮く金額が多いでしょう。車を手放すことで、タクシーを利用する機会が増えても、トータルで見れば、むしろ支出が減るかもしれません。
不要になった車を売ってお得になる
車を手放す際には、比較的新しい車なら中古車として売却するでしょう。売却代金が得られることも、免許を自主返納する1つのメリットです。
古い車で中古車として値が付かなければ、廃車にするという手段もあります。廃車にするとなると、お金がかかってしまうと考える人もいらっしゃるでしょう。
しかし、カーネクストのように廃車専門の買取を行っている業者では、廃車する車も買取を行っています。そのため、廃車にする時にもお金がかかってしまうことはありません。また、中古車ほどの金額にはならなくても、買取によって売却代金を得ることが出来ます。
万が一の交通事故を防ぐ
運転免許を自主的に返納するということは、運転に対して不安を感じたことがあるという人が多いでしょう。車に乗ることがなくなれば、交通事故の加害者になる心配はなくなります。もし、交通事故で相手を傷つけてしまえば、損害賠償を請求されてしまう可能性もあります。特に高齢ドライバーのご家族にとっては、家族が怪我をしたり、事故を起こしてしまったらどうしようといった心配はなくなります。
地域毎に運転免許自主返納をすることで特典がある
各自治体では、高齢者の運転免許自主返納制度を後押しするため、免許自主返納者を対象にさまざまな割引サービスが実施されています。例えば、車を使った移動が出来なくなるため提携するタクシー会社との共通サービスによって、タクシー料金が1割引になったり、レストランでの飲食代が5パーセント引きになったりという内容です。
特典の内容は都道府県や自治体によって異なり、利用できる条件も実施している店舗によって異なります。また、特典を利用する際には、運転経歴証明書の提示を求められることがほとんどですので、交付申請して取得し、持参するようにしておくといいでしょう。
運転免許返納後に再取得も可能
もし、免許を自主返納した後に、再び車を運転したくなった場合、一応再取得は可能です。ただし、新規で免許を取得する場合と、同じ扱いになります。自動車学校に通って、試験を受けなければなりません。制度上可能でも、現実的には費用も時間もかかります。
ただ、実際に再取得しなくても、一応再取得可能だということが分かっていれば、自主返納しようという気になる人もいるでしょう。その点では再取得できるということも1つのメリットといえます。
運転免許自主返納することによるデメリット
高齢者が運転免許を自主返納した場合には、デメリットも多くあります。
認知機能の衰え、外出のきっかけがなくなる
例えば、これまでは車を運転する機会があったため、ほどよい刺激になり、認知機能の衰えが抑えられていた人もいるかもしれません。車の運転を止めてしまえば、一気に認知機能の衰えが進行する可能性もあります。
外出が好きだった人でも、車を運転できなくなると、外出の機会が減るでしょう。車が好きな人にとっては、洗車したりワックスをかけたりするのも、楽しみのうちの1つです。運転を止めることで、楽しみも減ってしまい、家に籠もりがちになってしまうかもしれません。
交通手段が限られる地域では難しい
また、これまで車で通院や買い物をしていた高齢者なら、免許を自主返納した後は不便に感じるでしょう。都市部であれば電車やバスも多いため、慣れればどうということはないかもしれません。
しかし、地方で車が使えないと、交通手段が限られてしまいます。徒歩か自転車くらいです。1人暮らしや夫婦2人の世帯にとっては、通常の生活が困難になる可能性もあります。
息子や娘など、家族を頼るケースも多いですが、その分だけ家族の負担が増えるでしょう。定期的に通院しているのであれば、毎回送り迎えするのはかなり大変です。息子や娘などが、近くに住んでいなければ頼る人もおらず、スーパーに行くのにも苦労するでしょう。
返納ではなくサポートカーなど予防安全技術を取り入れる
免許自主返納により、特典を得られるなどのメリットがあるとはいっても、実際に運転することが出来なくなると、車が必要となる地域では生活自体が厳しくなります。認知力が衰えた高齢者による交通事故を防止するための手段として、運転免許の自主返納は有効ですが、それ以外の方法も考えなければなりません。免許を自主返納するのではなく、スピードを抑えたり夜間の運転を控えたりするなどして、安全に運転を続けるのもひとつの方法でしょう。また、サポートカー限定条件付免許も創設されましたが、最新の予防安全技術が搭載された車に乗り換えるというのも、車を乗り続ける手段として有効となっています。
まとめ
最新の道交法改正により、高齢ドライバーの運転免許更新方法や、新しい限定条件付の運転免許が創設されました。高齢ドライバーが増加傾向にあるため、今後運転免許更新時に技能検査の受検が必要となる方も増えるでしょう。
道交法改正を受けて免許更新せず、運転免許の自主返納をする人も増えるかもしれません。車にかかっていた費用負担がなくなり、返納することによって受け取れる特典も用意されているなど、運転免許の自主返納は魅力的なメリットも多い制度といえます。しかし、住んでいる地域や環境によっては、免許を返納すると生活しづらくなる可能性もあり、デメリットもあります。高齢ドライバーや高齢ドライバーがご家族にいらっしゃるという方は、運転免許の返納をするか継続して車を乗り続けるか、乗り続けるのであれば車をサポートカーに乗り換えるかなど、免許の更新時期が近くなる前に一度検討されてみてはいかがでしょうか。