皆さんは「水素自動車」をご存知でしょうか?
トヨタ自動車が、2014年12月に世界初のセダン型燃料電池車【MIRAI】を量産車として販売開始しました。そのMIRAIが、2020年6月に初代の生産を終了し、初めてのフルモデルチェンジを行った2代目モデルが同年12月より販売されます。
従来の車と比較しても、さまざまなメリットがある水素自動車なのですが、実はあまり知らないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、水素自動車とは何なのか、そのメリットとデメリットについて詳しく解説します。
水素自動車はどんな車?
まずは、水素自動車とはどのような車のことなのか、基本的なところから解説します。
聞き慣れないとは思いますが実は意外と歴史があり、日本初の水素燃料エンジンが開発されたのは1970年のことになります。4年後にはそのエンジンを搭載した試作車がデモ走行に成功しました。
公道を走行できるようになったのはそれから30年後。2004年にマツダの試験車両がナンバーを入手しました。さらに2年後には、公道での試験走行が可能となりました。2009年には、東京都市大学が水素燃料エンジンを搭載した「リエッセ水素バス」を開発しています。
量産型セダンとして2014年に初めて販売されたのが、前述させていただいたトヨタ自動車の「MIRAI」です。
水素自動車について
「水素自動車」とは、「水素」をエネルギーとする自動車のことです。さらに分類すると「水素を直接燃焼させるタイプ」と、「燃料電池を用いて発電するタイプ」があります。
水素自動車に搭載されている「水素燃料エンジン」は、水素と空気を取り入れて燃焼させて「水蒸気」を発生させる仕組みです。ガソリンエンジンと比較すると、燃焼時に発生する「窒素酸化物」が少なくなっています。
また、水素燃料エンジンはエンジン内で水素を燃焼しているため、走行中には水蒸気を発生させています。しかし、ここでは「二酸化炭素」が発生しないため、環境面でガソリンエンジンよりも大幅に優れているのです。
燃料電池車は「燃料電池」で水素と酸素の化学反応によって発生した電気エネルギーを使ってモーターを回すという仕組み。ガソリン内燃機関自動車がガソリンスタンドで燃料補給するように、燃料電池自動車は水素ステーションにおいて水素を燃料として補給するのです。
従来のガソリン内燃機関自動車と比較するとクリーンな車なのですが、燃料(水素)補給のためのインフラの整備などの課題が残されています。
水素を用いて動く!水素自動車を販売しているメーカーとその車
水素自動車の普及や技術の向上のために、さまざまなメーカーが開発を進めています。
その中でも今回は2点、水素を用いて動く自動車をご紹介しましょう。
ホンダ自動車の水素自動車は、クラリティFUEL CELLと言います。メンテナンスの対応力も鑑みるためリース取り扱いのみとなっており、2016年販売開始当時は自治体や企業向けのリース販売のみとなっていましたが、2020年6月からは個人ユーザーへのリース販売も開始されました。
1度の水素充填にかかる時間はおよそ3分と短くなっていて、電気自動車と比べると充填の時間短縮が大きくなっています。70MPaの高圧水素貯蔵タンクを完備していて、一度しっかりと充填すると750kmを走行が可能です(参考値)
2014年に初めて量産型の水産自動車として発売を開始したトヨタの「MIRAI」は、水素で作った電気で走る燃料電池車です。
一回あたり水素充填時間は3分程度で一充填走行距離(参考値)は約650km、ガソリン車と変わらない使い勝手を謳っています。前述のとおり水素自動車と燃料電池車では仕組みが異なるのですが、自動車業界における水素の普及に役立っていることは間違いありません。
水素自動車のメリットとデメリット
次に、水素自動車(水素を直接燃焼させるタイプ)のメリットおよびデメリットについて解説します。
水素自動車のメリット
水素自動車のメリットは主に以下の3つです。
- エンジンの変更が少ないので、比較的低コストで水素自動車を導入できる
- ガソリンと水素を両方適切に使うことが可能
- 二酸化炭素の排出量がゼロ
まずは「エンジンの変更が少ないので、比較的低コストで水素自動車を導入できる」ことです。水素自動車となると、従来の自動車とは全く異なる仕組みであり、導入には相応のコストがかかるというイメージがあります。しかし実際には水素導入にかかる変更点はそう多くなく、導入する際のコストが少ないです。
2つ目に「ガソリンと水素を両方適切に使うことが可能」であるということです。ロータリーエンジンはその構造上、「インジェクター」のレイアウトにおける自由度が高くなります。
その結果、「直接噴射」と「予混合」の両方に適応できる特徴を有するのです。予混合用のガスインジェクターを吸気管部に設けて、走行状況に応じた直噴と予混合の使い分けにより、最適な水素燃焼を実現します。
また、水素残量がなくなってガソリンによる走行が必要なときには、ガソリンインジェクターから自動でガソリンが供給されるというメリットもあります
3つ目に「二酸化炭素の排出量がゼロ」というポイントです。水素自動車が排出するのは無害な「水」であり、環境に配慮しています。エコ志向な人にとって魅力的な車ということになるのです。
水素自動車のデメリット
そんな水素自動車にはデメリットも存在します。
- 一般的な自動車に比べると価格が高い
- 水素を充填できるステーションがガソリンスタンドより少ない
- NOxが発生することもある
まず、1つ目は「一般的な自動車に比べると価格が高い」ことです。
比較的新しい技術であり、まだ十分に浸透していないことを鑑みると、どうしても価格面でデメリットを感じてしまうものです。今後の普及と技術開発によって価格も落ち着いていくことを期待しましょう。
2つ目に「水素を充填できるステーションがガソリンスタンドより少ない」ことです。
一般的な車がガソリンを必要とするためガソリンスタンドで給油するのと同じく、燃料である水素を必要とする水素自動車は水素の供給が必要不可欠です。メーカーは今後、水素ステーションの数を増やすとしていますが、現時点ではガソリンスタンドほど普及しているとは言い難く、水素を補給する場所を確保しないと利便性が大きく損なわれてしまいます。
現在2020年10月時点で水素ステーションは、日本全国135箇所で運用されていますが、都市部に集中している傾向にあります。
3つ目に「NOxが発生することもある」というポイントです。
NOxとは「窒素酸化物」のことであり、水素自動車は水だけでなく少量ですがNOxも排出します。ただし、従来の車よりは排出量が少ないので、そこまで問題にはなりません。
燃料電池車のメリットとデメリット
最後に、燃料電池車のメリットおよびデメリットについて解説します。
燃料電池車のメリット
燃料電池車のメリットは、主に以下の3つです。
- 環境に優しい
- エネルギー効率が高い
- 騒音を発しないので静かに走行できる
まず、1つ目は「環境に優しい」ことです。燃料電池車の走行時において発生するのは「水蒸気」のみです(水素を直接燃料として使用する「直接水素方式」のFCVの場合)。 大気汚染の原因である「二酸化炭素」「窒素酸化物」「一酸化炭素」「浮遊粒子状物質(PM)」「炭化水素」「アルデヒド」「ベンゼル」は排出されません。
2つ目は、「エネルギー効率が高い」ことです。従来のガソリン内燃機関自動車のエネルギー効率と比較して、2倍のエネルギー効率であるとされています。低出力域でも高効率を維持できるという特徴を有しています。
3つ目には、「静かに走行できる」ことです。燃料電池車は電気化学反応によって発電するため、従来の内燃機関自動車と比較して音が少なくなります。 都市の騒音対策や快適な走行が可能であるというメリットがあるのです。
燃料電池車のデメリット
燃料電池車にも、いくつかデメリットが存在します。
- コストが高い
- ガソリン車ほど長距離は走れない
- 普及に時間がかかる
まず1つ目は「コストが高い」ことです。水素自動車は歴史が浅いので、古い歴史を持つ従来の自動車と比較するとコストが掛かります。
2つ目は「ガソリン車ほど長距離は走れない」ことです。長距離走行をメインとした使い方をする場合、燃料電池車は適していないことになります。
最後の3つ目は「普及に時間がかかる」ことも挙げられます。前述のとおり水素を補給する設備の整備はまだ進んでいません。今後に期待したいところです。
水素自動車に関してよくあるご質問
水素自動車に関して、よくいただくご質問にお答えします!
Q.水素自動車とはどんな車なの?
A.水素自動車とは、水素と酸素を取り込んで起こした化学反応により起こした電気を使い、モーターを回して走行する車のことです。燃料電池により発電するため、燃料電池車とも言われています。2020年現在で水素自動車を量産車として販売しているメーカーはトヨタ自動車のMIRAI、その車ホンダのクラリティFUELCELL、ヒュンダイのネクソがあります。
Q.水素自動車を選ぶメリットって何?
A.水素自動車を選ぶメリットは、エンジン回りの変更が少なく、自動車メーカーとしても低コストで導入が可能であることです。そのため、普及台数が増えた場合生産コストを抑えることが出来る可能性も高い車となっています。また、水素は電気自動車と比べると充填時間の短縮が可能です。さらに二酸化炭素の排出量はゼロとなり、排出するのは水素が化学反応を起こした水のみとなるため、環境に配慮された自動車と言えるでしょう。
Q.水素自動車を選ぶデメリットって何?
A.水素自動車を選ぶデメリットは、まだまだ普及台数も少なく新しい技術の自動車となるため、メーカーの設定価格が高くなってしまいます。また、燃料補給に必要な水素ステーションの運用の絶対数がまだまだ少ないため、利便性が損なわれています。さらに従来の車に比べて少なくはなっているものの、窒素酸化物の排出があります。窒素酸化物の排出は、光化学スモッグや酸性雨の原因にもなるため、排出量を減らす努力が必要と言われています。
Q.燃料電池車を選ぶメリットって何?
A.燃料電池自動車を選ぶメリットとして、特に直接水素方式といわれるFCV社の場合は、走行時に大気汚染の原因と言われている有害物質の発生がなく排出されないことです。またエネルギー効率が高いため、低出力でありながら高効率を維持できています。また、電気化学反応により走行するため内燃機関自動車と比較して、エンジン起動音を少なくすることが出来るため、都市部などの騒音対策にもなります。
Q.燃料電池車を選ぶデメリットって何?
A.燃料電池自動車を選ぶデメリットは、普及台数が少なく、取り扱いディーラーや整備工場も少ないため、故障時などのコストを考えると維持費コストがかかってしまうことです。また、ガソリン車に比べると一度の充填量による走行距離は少ないと言われています。また、燃料電池自動車の普及自体が電気自動車に比べると遅れているため、水素ステーションなど燃料補給に必要な拠点の拡大のスピードも合わせて遅い傾向にあります。
まとめ
さまざまな可能性を秘めた水素自動車ですが、現時点ではまだ数多くの課題を抱えていることになります。しかし、今後の技術発展や設備整備によっては、一気に水素自動車が普及する可能性も十分に考えられるでしょう。自動車メーカーなどの今後の発表に注目したいところです。